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2008年7月

小さな船旅

憂鬱でも言葉を綴ることができるのとそうでないのがある。

昨夜は後者だった。

ダンスの稽古に行くのもやっと。

文字が書けない、言葉を綴れないというときはたいてい、人とも顔を合わせたくない。自分のせいでスタジオの雰囲気が暗くならないか、気が気ではなかった。

しかもスタジオに行ってさらにひどくなった。といってもぜんぜん他人のせいと言う訳ではなく、ただ単にいろいろ自分について思うところがあって、そうなったのである。

自分で書いていてもまあよく分からないが。

今日も少しそれを引きずった一日だったが、途中からそれどころではない気分になった。

整理して考えてみたら、劇団の仕事が思ったよりたまっていることに気付いた。なんとかしなければ。

帰宅して早速リストを作る。一つ一つ片付けてゆけば大丈夫大丈夫。

そういえば昼休み、関西にいる友人に電話してみた。もう10年ちかく会っていないが去年くらいからこの人の夢をよく見る。夢を見始めた頃、気になって共通の知人に彼の様子を聞いたら、病気で会社を休んでいるという。

最近、また元気になって会社に出てきているというので、電話してみたのである。

本当は倒れたと聞いてすぐに連絡したかったけれど、彼が関西に行く前に会社を辞めてしまったせいで個人的な連絡先を知らなかった。

電話口には関西弁の同僚らしき人が出て、今日は休みだと答えた。

彼は友人、というか私が勤め人だった頃の先輩である。いろんなことを教えられたし、それに何度も助けてもらった。その当時は私も生意気ざかりだったから感謝もしないで失礼なことばかりしていたけれど。

出会ってまもない頃、仕事で展示会に行き、電車で会社に戻ろうとしていたら、「あれに乗って帰ろうよ」と彼は水上バスを指差した。

国際展示場から浜松町までの小さな小さな船旅。夕闇の川辺に街の灯りがビーズのように並んできれいだった。私と先輩は二人並んでそれを黙って見つめていた。「きれいだねえ」と言って彼は眼鏡を外し、もう一度水面を見つめた。極度の近眼で眼鏡なしだと見えないはずなのに。お互い少しでも隙があれば憎まれ口を叩き合う、そんな間柄だから静けさが面映かった。

彼とは2年ほど一緒に仕事をしたし、私が違う部署に異動になった後も時々会った。仕事のこと、家庭のこと、恋人のこと、会えば親しく喋ったが、お互いあの時のことは一度も口にしたことがない。

何故だろう。あんなに鮮明に覚えているのに。

遠く離れてしまう前に、一度、あの時のことを話してみればよかった。水面を見ながら何を考えていたのか。それにもっときちんと言えばよかった。助けてくれてありがとう。

彼はきっと私を助けたことなんて覚えていないだろう。助けられた側はいつまでも覚えているものだけど、救った側は忘れてしまうものだ。

忘れてしまう前に言えばよかったな。

元気になったのかな。そうだといいけれど。

そのうちまた電話してみよう。

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