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いいこ

午前中は作業。昼夜と稽古。

帰りみちお茶を飲んでいたら突然、今朝がた見た夢を思い出した。

誰かに「いいこだね。いいこ」と頭を撫でられていた。母親のような、でも母親ではない、誰か。

あれは誰だっけ。

夢の中の私はうっすら幸せで少しもの悲しい気分。

「私はいいこでえらいんだな」と妙に納得。半分目をつむってじっとしていた。

一日忘れていたけれど、そんな夢。

ありがとう。私の頭を撫でてくれた人。

誰だったんだろう。私はその人の顔を見なかった。ただ「お母さんみたいな人だけれど、この人は違うんだな」と思った。

見ないで正解かもしれない。

ありがとう。

ちっともいいこじゃないしえらくもないのに、頭を撫でてくれて。ほんとにありがとう。

夢を反芻しているうち、何も聞こえなくなった。いつの間にかまどろんでいたらしい。向かいに座ったその人が「かわいい」と呟くのが聞こえた。

ぼんやりした頭でこの人はあの夢の中のお母さんみたいな人とは別人なんだな、と思った。

「かわいい」というのは「いいこ」とどう違うんだろう、どういうことなんだっけ。

無理にまぶたをあけようとすれば白目をむいてしまうほどの強烈な眠気。

水を飲みたいがグラスに手が届かない。こんな近くにあるのに身体が動かないせいだ。

眠気と喉の渇きを抑えるようとしていて、気がついた。

かわいい、は苦しみと関係があるのだろうか。

いいこ、と言われた時はあんなに幸せだったのに、今の私は極端な疲労に苦しんでいる。

少し震える手で私は頭を支えた。

これはどういう違いなのだろう。

問いが胸に浮んでも、今の私には考える力と時間が足りない。頭を支えている腕が痛み始め、まぶたも頬に落ちた。暗闇。静寂。

「かわいい」

閉じたまぶたの向こう側でまた聞こえた。

その人の願望なのかもしれなかった。

すまないなあ、とまどろみながら思った。私はかわいくない。かわいくなれない。もう大人だから。

「だけどそうなれたら本当はすてきですね。そうおもいますよ」

頭の中にヒゲを生やした小男の私が登場して言った。

すると

「ええ。努力はしてみるものですよね」とゴミ袋を抱えた私が振り返って気弱に微笑む。

苦しくなってきて目を開けると、前に水が置いてあった。

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