らむね
深夜の病室。
4人部屋だがカーテンで区切られていて、一人一人のスペースは割と広い。
私は締め切りの迫った仕事をなんとか片付けようと必死だ。
仕事は二つある。
一つはどうしても引き受けなければならなかったもの。分量も結構多い。
一つは友だちから何となく引き受けたもの。分量は少ない。どちらかと言えば、気の進まない前者の作業を機嫌よくやるためにこちらを気晴らしに引き受けた。
嫌なことと楽しいことは織り交ぜてやると、気持にメリハリがつく。
と、かすかに、病室の一方からかすかに、カタカタとキーボードを叩く音。
こんな時間に起きてて大丈夫?と自分のことは棚上げして心配する。
彼女も私と同じで、何か差し迫った仕事でもあるのかもしれない。
お互い頑張ろう。エイエイオー。
とりあえず今は集中しないと。
時々、見回りのナースが私のスペースを覗き込む。
そのたび、仕事をしていることが後ろめたくて、「あ、えーと」などと変な声を出してしまう。頭ごなしに叱りつけてくる人がそんなにいなくてありがたい。
身体の痛みでくじけそうな時、傍らに横たわる人の寝顔をちらっと見る。
その途端、理不尽なほどの喜びが胸にあふれてくる。
くじける、という言葉がラムネの粒のようにスウッと、溶けて、無くなった。
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