となかい と さいかい
午後、小さな同居人とともに東京へ。
春休みだからか、車内は結構混んでいる。
同居人は膝の上でちんまりおとなしく座って、窓からの風景を楽しんでいる。
ときどき「ほう~」「なむ~ぐんだだ」などと呟く。
にぎやかな家族連れが途中で隣に乗り込んできた。
4歳だという男の子は、小さな同居人を見るなり「可愛い可愛い~」と叫び、ほっぺたをつついたり、手を握ったりする。
おい、ちょっと待ってくれ。
「やめなさい」と彼の妹を抱いた母親が笑いながら言うが、男の子はますますウキウキして、「いいこいいこカワイコちゃ~ん」と言いながら乱暴な手つきでちょっかいを出してくる。
こら。乱暴なナンパ師め。
好いてくれるのは嬉しいんだけど……。
困ったねえ、といつになく大人の顔で私を振りかえる小さな同居人。
「そうだね。あの人はまだ子どもなんだよ」と視線でメッセージを伝える。
しかし反対側にも女の赤ちゃんはいるのに何故小さな同居人にだけ?
むむ。
そして、帰ってきた。
トナカイにミッキーマウス、黄色いワンワン。
小さな同居人は懐かしい面々に再会し、感動の叫び声をあげている。
そうなの?
あっちの家のほうが好きになったのかと思ってたよ。
やっぱり我が家はいいよね。うん。
パソコンを開いて仕事をいくつか片付けていたら、
ギエッ足の指が何か鋭いものに挟まれたっ!
机の下を見ると小さな同居人が足の親指を握り締めている。
なんと。
ついにここまで来てしまったのか……。
だってさっきまでかな~り遠くにいたよね?
とうとう、かように高速で動き回るようになってしまわれたのですか……。
いや、めでたい。
嬉しいんだけど、危険すぎます。
対策を練らねば。
疲れたのか、小さな同居人は入浴の前に寝入ってしまった。
しめしめ、その間にやることを全部片付けよう。
やっと済ませて夕飯を食べよう、としたその時、同居人が目を覚ました。
と、あたりを見回すと泣き出した。
どうも、あっちの家のつもりで目を覚ましたら、ここだったので、驚いたらしい。
しかも側に私しかいないし。
二人っきりは、イヤですか?
私は嬉しいんだけども。
抱きしめて、ダンスして、ふざけっこしたら、最後は笑い出した。
良かった。
あっちの家を出るとき、秋に上演しようと思っている作品のアイディアを思いついた。
環境を変えてみるのはいい。
発想が浮かぶ。
真夜中、窓の外を見ると、となりの公園で遅咲きの桜が咲き始めていた。
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