こどもだからね
朝。
小さな同居人が、ぶどうパンからぶどうだけをほじくりかえして食べている。
「パンも一緒に食べよう」と声を掛けると
「こどもだからね」と妙に分別のある笑顔で言い返してくる。
絶妙な間合いだったので思わず絶句。
「大人は?」と訊ねると「おとなは ぱんも たべるけど こどもは ぶどうだけ」と言う。
そうか……。納得しながらも「いや、子どもも ほじくらないで食べるでしょ。赤ちゃんだけだよ、そんなことするのは」と言ってみる。
ちょっと演技しながら「残念だよねぇ。赤ちゃんは甘いお菓子は食べられないしねえ」と言ってみると、
突然パンを口に放り込み始めた。
それでよろしい。
先日、ビルのイベントで無料で似顔絵描いてくれる、というのがあったので参加してきた。
小さな同居人は、絵描きのお姉さんが気に入ったらしく、
帰宅してから「にがおえやさんごっこ」を始めた。
めぼしい人物(ぬいぐるみ含む)をソファに座らせ、向かいに自分の小さなテーブルと椅子を持ってきて、画材(クレヨン、クレパス、ペン、ノートなど)を並べる。
見ているとまずは黒マジックで輪郭を描く。
その後に、色のペンやクレヨンで色づけ。
絵描きの人の手順とまったく同じに描き入れていく。
じいじ(私の父)の番が来て、驚いた。
ものすごくみごとな絵を描いた。
目と鼻と口と、髪の毛。二歳児とは思えない出来だ。
私や母のはぐちゃぐちゃなのだが、なぜ彼の顔だけ、こんなに素晴らしい?
もちろんぐちゃぐちゃの絵も嬉しいけどね。
それにしても、似顔絵を描いてもらったという経験だけで、こんなにも盛り上がるのだなあ。
ささやかでもいいから、実体験だ。
そうそう。明日6月6日はラジオに出演する。
そのため、午前中ピアノのレッスンが終わったらすぐに吉祥寺へ行かねばならぬ。
むさしのFMに2時から。「発信!わがまち武蔵野人」という番組だ。
マイクを通すと私の声は不気味になる。
まあラジオだし、顔が出ないだけマシだな。
同世代で、ほぼ同じ境遇にある人が、明日デートだとウキウキしている。
彼に持っていく惣菜の献立で頭がいっぱいな様子だ。
手には珍しくマニキュア。
彼女は性格も素直でとても可愛らしい。
男に恋するのは、素敵なのだろうな、と思う。
遠い場所にいすぎて、実感としては分からない。
考えてみると、私は30代の前半くらいから「恋する」という心境から遠ざかっていたように思う。
恋愛中毒だったからいつも渦中に身をいていたけれど、
心から好きな人がいる、というわけでは全くなかった。
何で恋愛中毒だったかと言えば、自分に自信がなかったからという一言につきる。
自分の欠点を直視するのが嫌だった。恋愛という状況を作り、その沼の中で溺れるふりをして、逃げていた。
今がいちばん人生でウキウキしているかもしれない。
世界は透明でいい香りのする空気に満ちている。
道端に咲いている花に、こんなに愛情を感じたことはかつてなかった。
小さな同居人と生きる世界は、しっとり柔らかであたたかい。
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